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薬草園歳時記(11)万両、千両、百両、十両、一両 2021年11月


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 千両の花は三夏の季語で、千両、仙蓼、実千両および万両、実万両が三冬の季語である。万両、千両、百両、十両、一両は、それぞれ赤い実を付ける。古来、正月の縁起物とされている。
 万両は、千両より沢山実が付くことから名前が付いたと言われている。園芸種には白や黄色の実がある。

 千両は、山林の半日陰に自生する常緑小低木で、花は黄緑色で小さく、果実は球形で赤く熟する。千両は葉の上に実をつけ、鳥に食べられやすく、万両は葉の下に実をつけて垂れ下がり、千両よりも重みがあると言われる。
 百両(カラタチバナ:「唐橘」)は、サクラソウ科ヤブコウジ属の常緑小低木で、葉は常緑で冬に赤い果実をつけ美しいので、鉢植えなど栽培もされる。寛政年間に葉に斑が入ったものが大流行し、百両単位で取り引きされたことから百両と呼ばれる。流行は数年で終わり、江戸時代後期に再燃した。現在、新潟県と島根県を中心に、栽培が続けられている。
 十両(ヤブコウジ:「藪柑子」)は林内に生育し、栽培もされる。細く長い地下茎(匍匐茎)が横に這って、先は直立する地上茎になる。
 一両(アリドオシ:「蟻通し」)は、アカネ科アリドオシ属の常緑低木で、千両、万両とともに植えて、「千両万両有り通し」と称して正月の縁起物とする。アリドオシの枝には針が多くある。針は花序が変化したもの。針は細長く、蟻でも刺し貫くということから、あるいは針が多く、蟻でないと通り抜けられないということからという、名の由来には二つの説がある。

千両の花(左)と千両の実(薬草園提供)

マンリョウの花(左)と万両の実(薬草園提供)

 万両は、高さ1mほどになる。同属のヤブコウジ(十両)と似ているが、ヤブコウジは高さ10cmほどなので、明らかに区別ができる。通常、万両は単幹で成長と共に下葉は脱落して、幹の上部にだけ葉が残る。葉は縁が波打ち、互生する。葉の波状に膨れた部分に、共生細菌が詰まった部屋が形成されている。また、葉は光に透かすと黒点が見える。花は白色で、7月頃に咲く。万両の果実は液果で、10月頃に赤く熟し、翌年2月頃まで見られる。

 東アジア?インドの温暖な場所に分布する。日本で、関東地方以西から四国、九州、沖縄に自生する。庭木などには広く植えられている。古典園芸植物で、江戸時代には葉が縮れたりした変異が選抜されて多様な品種群が栽培されていた。

 アメリカ合衆国フロリダ州では外来有害植物とされている。

 センリョウ(仙蓼、千両)は、センリョウ科センリョウ属に属する常緑小低木である。葉は対生し、葉縁には鋭い鋸歯がある。原始的な被子植物で、花は極めて単純、1個の雌蕊と1個の雄蕊だけからなる。冬に赤い果実をつける。マンリョウ(万両)と比べられるが、両者は遠縁である。

 日本を含む東アジアから東南アジア、南アジアに分布する。日本での花期は6月から7月。緑色の雌蕊の横腹に雄蕊が付く。雌蕊は丸い果実に成長して、横腹の雄蕊はいずれ枯れ落ちる。雌蕊の柱頭と雄蕊がついた跡が黒い点となって、赤い果実にほくろが二つできる。果実は核果、球形、直径 5 - 7 mm、11月から1月に熟して赤くなる。果実が黄色いものもあり、キミノセンリョウと呼ばれる。花の少ない冬に美しい果実をつけるため、観賞用に広く栽培される。センリョウは江戸時代初期から栽培され、生け花などに用いられる。

 夏に採取し乾燥した若い枝葉、それを酒で煮出したものを生薬とすることがある。中国では、腫節風 (Zhong Jie Feng) や草珊瑚 (Cao Shan Hu)、九節茶などとよばれ、抗菌、消炎、去風除湿、活血、止痛の効能があるとされている。センリョウからはセスキテルペン、フラボノイド、フェノール酸、クマリンなど200種以上の物質が単離同定されており、その中には抗菌、抗ウイルス、抗炎症、抗腫瘍、および抗血小板減少症が確認されたものもある。センリョウを、お茶として利用する地域もあるという。

 カラタチバナ(百両)も常緑小低木で、マンリョウ(万両)、センリョウ(千両)、ヤブコウジ(十両)とともに、正月の縁起物とされる。濃い緑の葉と、永く枝に残る果実は縁起が良いとされる。果実は4月頃まで落ちない。鉢植えにされ、庭木にも利用される。果実が白色または黄色に熟す園芸品種がある。

カラタチバナの花(左)とカラタチバナの実(薬草園提供)


ヤブコウジの実(薬草園提供)

 ヤブコウジ(十両)は、日本の北海道南部(奥尻島)、本州、四国、九州に分布し、丘陵地林内の木陰に普通に自生する。また、朝鮮半島、中国大陸、台湾に分布する。花期は7月から8月である。花は葉陰に隠れ、果実ほど目立たない。地下茎を伸ばして繫殖力旺盛なので、庭園のグランドカバーに植栽される。葉に白い斑が入った園芸品種がある。

 落語『寿限無』の中の「やぶらこうじのぶらこうじ」とは本種のことと推測されている。また、寺田寅彦は、筆名のひとつに藪柑子を使った。

 根茎、または全草の乾燥品は、紫金牛(しきんぎゅう)と称する生薬になり、中国でよく用いる。紫金牛は、根茎を掘り、よく水洗いした後、天日乾燥して調整される。回虫、ギョウチュウ駆除作用、つまり「虫下し」や、のどの腫瘍、慢性気管支炎の鎮咳、去痰に効用があるといわれる。副作用がなく安全とされている。民間療法では、全草の乾燥品1日量10-15グラム、もしくは大量投与で30-60グラムを水で煎じ、3回に分けて服用する用法が知られている。大量投与の時に、頭痛、胃の不調、下痢があらわれるが、服用をやめる必要はないとされている。

アリドオシの実(薬草園提供)

 アリドオシ(一両)は、高さは、30-60 cm、主茎はまっすぐ伸びるが、側枝はよく二叉分枝しながら横に広がる。葉は対生、長さ1-2.5 cmの卵形、固く表面に光沢ある。葉腋に1対の細長い長さ1-2 cmの針がある。葉が枝から水平に広がり、それに対して針は垂直に伸びる。花期は初夏。葉腋に筒状の白い4弁花を、通常2個ずつ咲かせる。各地で個体差があり、花柱が長く、雄蕊が短い花をつける個体と、花柱が短く雄蕊が長い花をつける個体があるようだ。果実は液果で、冬赤く熟し、先端に萼が残る。果実は翌年の花期まで枝に残ることがある。

ミヤマシキミの花(静岡市竜爪山にて、山本羊一さん撮影2019.4.6)

 これらの他にも、ミヤマシキミ(深山樒)があり、別名「億両」と呼ばれている。果実が、冬の山中で非常に目立って美しいが、有毒で、食べると痙攣をおこすといわれる。葉や実にアルカロイドがある。昔は、頭痛や、めまいなどの民間薬として使用していた。また、煎じ汁は虫下しとして使用した。
 今回も、薬草園の山本羊一氏に貴重なご意見をいただいた。


尾池 和夫


薬学部の薬草園サイトはこちらからご覧ください。
https://w3pharm.u-shizuoka-ken.ac.jp/~yakusou/Botany_home.htm

キャンパスの植物は、食品栄養科学部の下記のサイトでもお楽しみいただけます。
https://dfns.u-shizuoka-ken.ac.jp/four_seasons/

下記は、大学外のサイトです。

静岡新聞「まんが静岡のDNA」の記事でも薬草園を紹介しました。
https://www.at-s.com/news/article/featured/culture_life/kenritsudai_column/742410.html?lbl=849

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